時間が経つにつれ、ジワジワと押し寄せる 北野武監督作品 Dolls

「Dolls」を初めて見たのは、地元浦和の映画館だった。2002年の寒い時期であり、今から約15年前のことである。その年、決して忘れられない大きな出来事があり、少し落ち着き出した約半年後のことだった。先日、そんな「Dolls」を見返した。

 
 

 
 

当時は、「ソナチネ」に次いで二番目に好きな北野映画になった。ビスコンティやフェリーニなどを連想させ、北野武は巨匠監督の一人になる、と感じたからだ。けれども、今回見返した時点では、「ソナチネ」に次ぐとは言い切れない。再び見るべき作品がまだまだあるからだ。

 

また、今回見返した直後では、何とも言えない気持ちになった。つまらない、あるいは、面白くない、ということではない。3つのエピソードが織りなすストーリーにのめり込み、様々なことを想起できた。涙が出るようなことはなく、おそらく北野武監督作品への回帰を本当に自覚できたからだろう。何かポッカリとしながらも、嫌な気分ではく、言葉にならないというのが、正直な感想だ。

 

しかし、時間が経つにつれ、ジワジワと押し寄せて来た。独特の様式美的な表現であり、日本の豊かな季節の風景が、映像の所々で使われている。とりわけ、桜と紅葉が印象的であり、頭の中にずっと残っている。日本の自然美と形容でき、つい見とれてしまう。これと対照的であるのが、3つのエピソードだ。

 

一体、自分が原因とは言え、精神を病んでしまった元彼女と、物干し用のロープで繋がり合い、日本各地を転々とできるのか?

 
 

 
 

一体、何十年も前に去って行った男を、お手製の弁当を二つ抱えながら、ベンチで待ち続けることができるのか?

 
 

 
 

一体、好きなアイドルとはいえ、彼女が片目を失明したら、見てはいけないとの理由で、自分の両目を傷つけることができるのか?

 
 

 
 

冷静に考えれば、上記のことは狂った行為であろう。けれども、どこかしら共感してしまう。これを鑑みた場合、人の心は、少し進路を変えれば、狂気に走るのかもしれない。もちろん、そこには、わたし自身も含まれる。だからこそ、時に自分が嫌になることもある。

 

もし「Dolls」を端的に言うのであれば、狂った恋愛に走り、醜い姿のエピソード集ともなる。全体的に見れば、日本を舞台にした美と醜のエピソードが描かれているともなろう。「ソナチネ」のレビューで述べているが、北野武という人は、やはり、逆説性や両義性などをよく理解していると思う。

 

時に善が悪になるように、美しいこともまた醜いことになる。そのまた逆も然りである。「Dolls」においては、そんなことが非常にコンパクトに表現されていると思う。

 

また、後年の「TAKESHIS’」や「監督・ばんざい!」で見られるようなシュールな遊びもある。たとえば、雪小屋の物干しからドテラを持っていくシーンがある。当初、物干しだけ映されていたが、徐々に変化し、絵に書いたようなドテラが二つ浮かび上がる。少々わざとらしさもあるが、映画とはおもちゃでもあり、そういう遊び感覚が大事でもあろう。

 

始めでも終りでも、浄瑠璃のカップルが出て来る。人形が見ている人の物語を演出したとされるが、それもまた、シュールな遊び感覚に思われる。「ソナチネ」のレビューで、北野武監督は人形使いと述べているが、「Dolls」において、それが直接的に現れたとも言える。先で触れた「TAKESHIS’」や「監督・ばんざい!」は、現実と空想の間を行き来する話だ。すでに「Dolls」の中でも、垣間見えている。

 
 

 
 

もしかすると、「Dolls」は難しい映画と見なされているかもしれない。しかし、よくよく見れば、実に簡単なことを描いているのかもしれない。おそらく恋愛そのものが、狂気の類であることを表現しているのだろう。この点では、「あの夏、いちばん静かな海」の方が、一般的な感覚に近いかもしれない。しかし、「あの夏、いちばん静かな海」では狂気の類が、向こうから訪れてくるが、「Dolls」ではこちらから訪れて行くように感じる。どちらもまた、人の不可思議さや皮肉、哀愁や切なさ、そして、逆説性や両義性などが描かれているように思う。

 

北野武の映画と言えば、キタノブルーが有名である。「HANA-BI」によって広く知れ渡ったが、「Dolls」においては、カラフルな映像であり、ブルーに偏った感じがない。破壊と建設を続けることが、北野武の特徴でもあり、団塊世代生まれとの関係から、どうしても実存主義と結びつけてしまう。皆さんは、どのようにお思いになるだろうか?

 

なお、個人的には、アイドル役に深田恭子を起用し、彼女の持ち歌である「キミノヒトミニコイシテル」をそのまま使用したのが、非常に面白かったと思う。いかにもアイドルの歌であり、エピソードとは対照的なリズム感が、返って印象に残ってしまった。初めて見た時は、知人などとカラオケへ行き、ついつい歌ってしまったほどだ(笑)。これもまた、北野武とともにビートたけしの力でもあるのだろう。

 

長くなった。今回はこれまでである。相変わらず、中身の薄いレビューとなっているが、最後までお読みいただければ、誠にうれしい限りである。

 

参照 :

- Dolls 公式サイト

- 深田恭子 キミノヒトミニコイシテル Uta-Net動画+

- 色褪せない操り人形と鮮やかな海 北野武監督作品 ソナチネ

 
 

 
 

音声レビューもアップしました。ご覧いただければ、幸いです。

2017年6月2日

 
 

 



記事リンク ご感想