雨が降っている じとじと しとしと
全てを洗い流すように 静かに降っている
わたしは大きな黒い傘を差し 路地を歩いている
人の姿を見かけることはなく 薄暗い住宅街に
街灯の光しか 射し込んでいない
急ぎ足になっていたが ふと見慣れぬ建物があった
大きな門のようで 寺でもできたのか と思った
興味が湧き 門へ立ち寄った
コンクリートの階段を数段上ると 大きな閂が掛かっていた
誰もいないようだが わたしだけを
呼び込むような 雰囲気があった
門の前に佇んだ 目的もなく 動機もなく
ただ そこにいることを望んだ
雨が降っている じとじと しとしと
全てを洗い流すように 静かに降っている
カランコロンカランコロン 下駄の音がした
赤い傘を差した 赤い着物姿の少女がやって来た
傘を上げると こけしのような顔立ちで
ニヤッとわたしを見ながら 笑った
ゾクゾクッとしたが 逃げることができず
いや 逃げる気がせず 彼女の細い瞳を見つめた
(いつまで待ってるの?)
少女が透き通るような声で わたしに言った
雨が降っている じとじと しとしと
全てを洗い流すように 静かに降っている
雨が降っている じとじと しとしと
全てを洗い流すように 静かに降っている
わたしは何時まで 待つ気であろうか?