Aくん

Aくんは決めました
上ることにしました

 

目の前に階段があります

 

初めは
不安でした心配でした

 

できるのだろうか?
行けるのだろうか?

 

果てしない階段のように見えました
自信がありませんでした

 

それでも

 

上ってみたい試してみたいという
気持ちが強くなりました

 

Aくんが一歩を踏み出しました
静かに力強く上って行きました

 

歪んだような空間が広がり
まるで氷の中にいるようでした

 

どこにいるのかわからない
何をしてるのかわからない

 

ただただ
階段を上って行きました

 

ふと立ち止まり 
後ろを振り向きました

 

今帰れば
弱気の虫が出て来ました

 

下へ行けば楽なのに
そんなことも思いました

 

しばらくその場にいました
階段の中途で腰掛けました

 

ひんやりした中で
じっとしていました

 

頭の中に過って来ます

 

一体何をしてるんだろう?
一体何を目指してんだろう?

 

再び下を見ました

 

すでに
スタート地点は分かりませんでした

 

階段が二等辺三角形のように続き
細長い先は全く目に映りませんでした

 

Aくんは悲しくなってきました
下ばかり見ている自分が情けなくなりました

 

どこかから叫び声がするような
そんな気持ちにもなりました

 

Aくんは立ち上がりました
再び階段を上りました

 

そっとしずかに
ゆっくりじっくり

 

足音も響かずひたすら上って行きました
ここで終わったらあとで後悔する

 

脳裏に
芥川龍之介の「蜘蛛の糸」が
浮かんで来ました

 

それでも

 

Aくんは
歩みを止めませんでした

 

階段が続きます
どんどんどんどん連なって行きます

 

Aくんが疲れてきました
だんだん嫌になりました

 

それでも止めることはしませんでした
何かある何かある行ってみるんだ行ってみるんだ

 

どれくらい時間が経ったでしょうか?
上の方から光が射して来ました

 

歪んだ空間が円錐のような形になり
その向こうには開けた感じがありました

 

Aくんが少し歩みを速めました

 

周囲が縮んでくるようでしたが
気にせず階段を上って行きました

 

とうとうゴール?
Aくんが円錐のような形の頂点を抜けました

 

光が煌々と輝き出し
天国はこういう所かもと思いました

 

光の中へ入ると立ち止まってしまいました
頂点の先には大きな空間があるのです

 

広い鍾乳洞のような感じで
ゆっくり休めるような所です

 

Aくんはじっとしました

 

喜び勇んだ気持ちが
すっかり蕩けてしまいました

 

空間の先にはまだ階段が続いています
一体どれ位続いているのでしょうか?

 

誰にも分かりません

 

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