拙作 出逢い

暇を持て余したので、ネットをつらつら見ていた。ニュースや動画サイトへ行き、腹を立てたり笑ったり、気ままな時間を過ごした。

ふと、あるライブ配信サイトへアクセスした。プロからアマチュアまで自分なりの番組を放送していた。

歌手もいればお笑い芸人もいる。モデルもいれば俳優もいる。一般人も目にしたが、画質や音質は他のサイトより上かもしれない。

時代が大きく変わった。
パソコン通信を知るわたしのような者には、強く感じられた。

ライブ配信サイトはアカウントなしでも視聴できるが、コメント等のサービス利用には必須だ。SNSアカウントと連携できるので、早速登録した。

 

すでに秋風の舞う夜になっていた。

腹も鳴っていた。飯を食おうと思ったが、あるルームに目が止まり、腹ごしらえを後回しにした。

他に比べ、少し地味で控え目な感じだ。だからこそ、わたしのようなデクノボーにも入りやすかった。

アクセスすると、すでに配信中だった。画面中央に一人の女性が映り、周囲にはアバターがワンサカワンサカしていた。

 

外と内では異なる。

自分にはふさわしくないかと思ったが、女性が箱の中に手を入れ、ガチャガチャしながらカラーボールを手にした。興味が湧きそのまま見ていると、番号を言ってから口にした。

「鳥の詩」

非常に懐かしく感じた。テレビドラマの挿入歌でカラオケで選んだこともあり、これから歌うようだった。

雑談が少し続いた後、ギターの音色が響いた。自然と引き込まれた。ふわりと持ち上げられるような透き通る声に心を打たれた。

 

 

あの当時、わたしは小学生だった。子供は子供なりに悩みや不安を抱えていたが、必死になれる無垢な心も持っていた。

サッカーをやればひたすらボールを追いかけ、虫取りをするとなれば明け方早くにパッと目を覚ました。

友達と馬乗りをすれば本気で飛び乗り、かけっこをすればたとえ鈍足でも全力を出そうとした。

 

無垢は無謀にもなり、時に危険にもなる。年を重ねるにつれ、節度を身に付け、自制の心が強くなる。

しかし節度を繰り返してばかりいると、自分で自分を縛り続け、一歩が出難くなる。安心安定ばかりを求め、冒険をしなくなる。

ちょっとしたきっかけで感じていた。少し物足りない。

 

すでに中高年に入っているが、都内の私大を卒業してからIT関連の派遣社員をしている。時代に翻弄されながらも、とりあえず応用が効くようなプログラミング言語は学べた。

ここらで一つ、独立でも。

前々から微かに思ってはいたが、足が動かなかった。心掛け次第だと感じてはいたが、なかなか踏み切れなかった。

時には幼い心を取り戻すことも、先へ進むために必要なのかもしれない。

 

そしてわたしの頭にはある人も浮かんでいた。派遣先の女性社員で同じチームで働いている。彼女はプログラミング言語を習得中で、時折わたしに尋ねて来る。

一回り若い年頃だが、ショートカットで小鳥のような笑顔を見る度、心がほだされる。離婚してから10年。彼女は映画が趣味とのことだ。

 

「鳥の詩」が終わってから、再びトークになった。コメントを読みながら時に笑い声を上げ、配信者自身も楽しんでいるようだった。

サイトはSHOWROOM、女性の名は北口和沙、ルームはかずさカフェ

また来よう。そう思った。また取り戻せる。そうも思った。

 

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