コイン

タバコをくるらしながら 彼女の話を聞いていた

カフェは似合わない わたしの中では喫茶店

 

窓外の足早のビジネスマンたち 

さわやかな日本晴れでも 仕事は仕事

 

(週末、海にする? 山にする?)

(どちらでも)

(海にしよう)

(寒いのに)

(見るだけでいい)

 

キラキラする彼女の円な瞳 

陸育ちのわたしでも 見るだけならいい

季節は関係ない

 

(車だからね)

(ああ。ガソリン代はオレだな)

(ええ、そうよ)

 

彼女がニコリとする ふっくらした頬がさらに広がる

これでいつもわたしは ほっこりしてしまう

わたしは運転しない 車が嫌いではない

運転が嫌いなだけ

 

もっとも 免許にトライはした 途中で投げ出した

営業を約束されたバイト先と 揉めたから

変なルートは作らない それ以来の誓い

 

(7時までに来てね、うちに)

(げっ!!早えなあ。起きれっかなあ?)

(大丈夫よ。起きれるよ。起きれるって)

(どうして?)

(モーニングコール)

 

彼女は楽しそうだ 周囲に客がいながらも

耳に入るような鼻歌 まるで子供のようだ

 

窓から光が射している 暖房が掛かっているも

暑くはない 寒さがどんどん増している 間もなく年末だ

 

窓外の足早のビジネスマンたち 間を縫うように男女の流れ

ふと 赤いマフラーを巻いた女性が 歩道の端で身を屈めた 

黒い長財布を手にしたようだ

 

正面を見ると 彼女もその光景を目にしていた

硬直したような白い横顔が わたしの瞳に映った

 

マフラーの女性は 歩みを進め 人々の群れに紛れた

彼女は視線を移し スマホを少し眺め わたしに言った

 

(見てたでしょ?)

(ああ)

(届けないよね、たぶん。いいよね、あたしも拾いたい)

 

タバコをくるらしながら 彼女の話を聞いていた

カフェは似合わない わたしの中では喫茶店

 

彼女はIT企業の受付係 いつも笑顔を振りまいている

IT企業は 派遣プログラマーであるわたしの 次の職場だった

 

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あの声