頭からガウンを すっぽり被り
祈るような姿勢で ベンチに座っている
時折歓声が聞こえるも男の耳には入らない
スポーツバッグに忍ばせた スマートフォン
壁紙には 妻と娘たちの笑顔
男はただただ沈黙している
バタンッ と乾いた音がした
若々しい 歓びの声が広がる
男の肩にシワの多い手が伸びた
男が立ち上がる ゆっくりと 静かに
男が一歩を踏み出す ゆったりと 穏やかに
頭からびっしょり濡れた 上半身裸の若者が
にこやかな顔を向けた
男が少し顔を上げ若者へ微笑みを投げた
スッキリし過ぎた鼻筋 深く刻まれた目尻の断層
削げ落ちた両頬を伴い クッキリした瞳がキラリとしていた
リズミカルな旋律が鳴り響いた
男の好きな歌 男のお気に入りの歌
何度も何度も耳にしてきた
男が選んだ歌 男をサポートする歌
数人に囲まれるように 男が歩みを進めた
ドアを開けると 大歓声が訪れた
ラスト・パレード
頂上へ至る道に 復路はなかった