太宰治が玉川上水で身投げをしてから、約70年の月日が経っている。よくよく見れば、彼は大東亜戦争前に育った人間であり、戦後育ちとは異なった環境で作家として認められた。けれども、21世紀になった今でも、太宰治の力は健在であるように思う。
たとえば、太宰と言えば、「人間失格」をイメージする人が多いだろう。主人公である大庭葉蔵の手記として描かれ、人の心のマイナス面をこれでもかこれでもか、と書き連ねている。けれども、わたしが見るところ、冒頭部分で語り尽くされているように思う。一語で表わせば、「恥」である。おそらく今の人たちの中にも、こういう「恥」を感じながら生活している人がいるだろう。「人間失格」は、文庫版の累計で、600万部を越えているという。もちろん、これは21世紀の現在をも含めた数である。日本を代表するベストセラー作家の作品と言ってもいいだろう。